フェードとベーパーロック

ブレーキは運動エネルギーを熱エネルギーに変換する装置なので変換量が増えればそれだけブレーキは温度が上昇します。
当然熱エネルギーは大気中に拡散していきますが、拡散する量より変換する量が増えれば熱が溜まっていくことになります。これがどんどん起こっていくとどうなるかと言うとフェードやベーパーロックが発生します。これはブレーキを使えば使うほど起こるものなのでどうしようもありませんが、ブレーキの各部品の見直しによってフェードの発生を遅らせる若しくは少なくすることは出来ます。どうすればよいかと言うことはあとで述べるとしてまずフェードとベーパーロックはどのようなものなのかを述べたいと思います。

フェード(Fade)
フェードにはサーマルフェード(熱フェード)とウォーターフェード(水フェード)がありますが、一般的に言われているフェードとは熱フェードのことです。ブレーキタッチは変化しないのですが制動力が伸びてしまうと言うフィーリングになるそうです。

熱フェードとはブレーキパッドに含まれる有機樹脂(接着剤)が温度上昇に伴い気化してブレーキローターとの間に気体の層を形成することによりパッドの摩擦係数が低下する現象のことを言います。
まず、ブレーキパッドには鳴き難い材料、磨耗しにくい材料、熱伝達係数の低い材料、材料同士を接着する材料、耐熱性のある材料など様々な材料が含まれています。この中で接着する材料は全般的に有機樹脂であり温度変化により状態が変化します。
工業温度(20℃)を含む常温では有機樹脂は固体ですが、温度が上昇するにつれて固体→液体→気体になります。(余談ですが固体から液体にならず気体へ変わることもありこれを昇華と言います)フェードとはパッドに含まれる材料の状態が変化する物理的なものです。

水フェードとは深い水溜り若しくは著しい雨によりパッドとローターの間に水が浸入してパッドの摩擦係数が低下する現象のことを言います。これを防ぐには…水溜りの中を走らないとか著しい雨の中は走らないとか(^▽^笑)じゃないでしょうか?水フェードが発生すると何度かブレーキを踏むことにより回復します。 ベーパーロック(Vapor lock)
ベーパーロックとはパッド温度が上昇する(もっと詳しく言うと摩擦材料温度が上昇して熱がパッドの裏金へ伝わりキャリパーピストンへと伝わる)、若しくはパッド&ローター温度の上昇により放射された熱がキャリパーへと伝わりキャリパー温度が上昇するという2つの現象が発生することによりブレーキフルード温度が上昇し、フルード温度が沸点を上回ると気体が発生することによりブレーキのストロークが長くなるという状態です。また一度発生した気泡はブレーキフルードを入れ替えなければ抜けることはありません。ブレーキタッチは非常に軟らかくなり踏んでも効かない若しくはブレーキペダルが底まで着いてしまうというフィーリングになるそうです。

これらはどちらか一方若しくは両方が発生することによりブレーキフィーリングが悪化して制動力が伸びてしまう若しくは制動力が発生しないという状態になってしまいます。
これらを防ぐには根本的にはハードブレーキングをしないことがありますが、サーキット走行をする場合などはそうも言ってられません。ハードブレーキングをする必要があるがこれらを防ぎたいと言う場合にはブレーキ熱容量の増加と言うことがあります。

ローター外径が大きくなるとローター有効径が大きくなり同じ制動力でもトルクが増える分ブレーキラインの圧力が低下することにより発生する熱量が減少します。また、同じ熱負荷を与えても単位面積あたりの熱負荷が減少する並びに有効表面積が増加することによりことによりローター温度が低下します。どちらがどうと言うことではなく外形を大きくすることによりこれらのことが起こると言うことです。

パッド面積が増加すると同様に熱容量が増加します。同じ熱負荷を与えても単位面積あたりの熱負荷が減少するために温度上昇が穏やかになりパッド温度が低下します。
またはパッドに含まれる材質を温度上昇に対して摩擦係数変化の少ないものを多く含ませたり、有機樹脂の量を減らしたり若しくは使用しない、熱伝達係数(熱を伝える量)の低い材料を使用することによりフェードの発生を遅らせることが出来ます。ただし鳴きの問題や低温時の摩擦係数の低下、ローター攻撃性の増加などが使用材料によっては発生する可能性があります。

キャリパーの材質を熱放射に優れ熱吸収が起こりにくいものにするとキャリパー温度上昇を防ぐことが出来ます。強度は考慮しないと言う前提で純銀、銅、金(この順に優れています)などが熱伝導率に優れた材料です。金属は合金にするとその機械的性質並びに物理性状が変化するのでどのような合金があるのか調べきれませんのでどれが良さそうなどとはいえません。対向キャリパー用として一般的に使われる材料はアルミニウム合金だと思います。

これまでのことでブレーキに効率的に走行風が当たるような導風板を取り付けることにより冷却したり、放熱性に優れたデザインのホイールを使用することによりフェード&ベーパーロックを遅らせることができると考えられます。その際導風板はキャリパー(もっと言えばキャリパーピストン)に風が当たるようにすると良いのではないでしょうか?
グループAではキャリパーに水を吹きかけていたそうです。またAPのレース用では水冷キャリパーがあるそうです。

ブレーキフルードの沸点を高いものにすることによりベーパーロックを遅らせることが出来ます。DOT3よりDOT4、DOT4よりDOT5は沸点が高くなります。また、ブレーキフルードは大気中の水分を吸収して沸点が低下するので同じDOTでも新品に入れ替えることで本来の性能を発揮することが出来ます。

ブレーキフルード規格
DOT3 DOT4 DOT5
ドライ沸点 205℃以上 230℃以上 260℃以上
ウエット沸点 140℃以上 155℃以上 180℃以上

ドライ沸点とは水分の混入率が0.1%以下での沸点で、ウエット沸点とは水分の混入率が3.5%以下での沸点です。


とこれまでフェード&ベーパーロックの発生とその対策について述べてきましたが、これらが発生した場合の対処について少し述べたいと思います。
まずこれらが発生したら対処として冷やすことです。と言っても緊急事態を除いていきなり車を止めることはローターにヒートスポットができる為懸命ではありません。安全に走行できるのならば(たとえばクールダウンできる周回があるなど)ハードブレーキを使用せずゆっくりと走行した後停止すると言うことが勧められています。

フェードはパッドとローターの表面を見て表面に発生した炭化膜をサンドペーパーなどで削り取ることによりまた再使用できるようになります。といってもローターに亀裂が発生していたりパッドが変形若しくは一部脱落していたら二度と使えませんが…
ベーパーロックはブレーキフルードを入れ替えるしか方法がありません。ただ、気泡の発生した部分を抜いてしまえば再使用できるようになります。

余談ですがPFCのパッドはハードブレーキングをするほど減りにくくローターにカーボン皮膜を形成することにより摩擦係数を安定させるという製品のため双方に発生した炭化膜は軽く拭うだけのほうが良いそうです。これはカーボン100%で接着剤を使用しないために可能なのだと思います。因みに使用最高温度は1000℃だったと思います。

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