カムシャフト&バルブタイミング

カムシャフト(Camshaft)

カムシャフト(以下カム)とは吸気&排気バルブを動作させるために備えられています。また、自動車などの小型エンジンではカムの配置される場所並びに数によりOHV、OHC、DOHCの3つに分けられます。


OHV(Over Head Valve)

現在でも小型のコストを押さえられたディーゼルエンジンはクランクシャフトの周辺に配置されており長いプッシュロッド(だったかな?)がエンジンヘッドまで伸びてロッカーアームを介することにより吸気&排気バルブを押し下げる構造になっています。
カムの作動はクランクシャフトの回転をギアを介することにより行われます。
この方式のメリットはコストを押さえられること等ですが、デメリットとしてはエンジンの回転数が高くなっていくとバルブの追従性が悪くなりバルブタイミングが変化する等があります。


OHC(Over Head Camshaft) or SOHC(Single Over Head Camshaft)

OHVではエンジンの高回転化に対してデメリットがあるため偉人たちにより新しい構造が考えられました。その構造とはカムをヘッドの上に持ってくるようになっています。カムはロッカーアームを介するだけで直接バルブを押し下げる構造になっています。
また、カムの作動はクランクシャフトの回転をタイミングベルト(JZX100など大部分の車)を介することにより行われます。
この方式のメリットはOHVに比べるとエンジンの回転数を上げてもバルブの追従性を保てること等ですが、デメリットとして部品点数が増えることによりコスト増等があります。


DOHC(Double Over Head Camshaft)

DOHCはOHCのカムの追従性をさらに良くする為に吸気側、排気側で独立したカムを持つ構造になっています。独立したカムを持つ=2つのカムを持っているのでDoubleの頭文字が付いている訳です。カムはOHCよりもバルブの間の部品がさらに少なくバルブリフターやシムなどの金属筒(板)だけを介するだけで直接バルブを押し下げる構造になっています。
また、カムの作動はOHCと同じですがタイミングベルトのほかにタイミングチェーン(PS-13等)やモーターサイクル用を別にするとレース専用としてカムを介して行われます。
この方式のメリットはOHCと比べてさらにカムの追従性を保てることなどですが、デメリットとしてはOHCと同じくコスト増等があります。


バルブタイミング(Valve timing)

バルブタイミングとはピストンの上下運動に対してどのタイミングで吸気&排気バルブを動作させるのかを表しているものです。具体的には図を用いて説明したいと思います。

右の図はJZX100 1JZ-GTE(VVT-i)のバルブタイミングを示したものです。排気バルブは赤い線&文字、吸気バルブは青い線&文字で表しています。また、これは普通に見ると360°円ですが、4ストロークエンジンの場合は2回転に1回燃焼があるので720°分を1つの図に書いていますのでちょっと見難いかもしれません。でも、バルブタイミングを示した図(バルブタイミングダイアグラム)は通常このようになっているので・・・
円の上に“上死点=TDC(Top Dead Center)”と書かれている場所はピストンが最も上昇した場所のことで、ここはピストンスピードが0になる上側の点です。“下死点=BDC(Bottom Dead Center)”と書かれている場所はピストンが最も下降した場所のことで、ここもピストンスピードが0になる下側の点です。
当然4ストロークエンジンは1サイクルで2回転するので上死点&下死点は2回通ることになります。
その前にこの円は時計回りに読むようになっています。つまり上死点から下死点に移動するときには円の右側を通っていき、下死点から上死点に移動するときには円の左側をとおっていくようになります。進行方向に対して上死点(下死点)を中心に進行方向手前だと“前”とし進行方向奥だと“後”とします。

JZX100 1JZ-GTE(VVT-i) JZX90 1JZ-GTE
バルブタイミング 吸気 開き始め -6°〜54°BTDC 3°BTDC
閉じ終わり 52°〜-8°ABDC 41°ABDC
排気 開き始め 46°BBDC 46°BBDC
閉じ終わり 2°ATDC 2°ATDC
オーバーラップ 0(-4)〜56°
BTDC(Before Top Dead Center):上死点の左側
ABDC(After Bottom Dead Center):下死点の左側
BBDC(Before Bottom Dead Center):下死点の右側
ATDC(After Top Dead Center):上死点の右側
オーバーラップ:下で説明
吸気バルブ

このエンジンはVVT-i(Variable Valve Timing intelligent)が付いているので吸気側のバルブの開くタイミングが可変になっているので青い線が2つ(最大値と最小値)あります。
まず解り易くするために、外側の円弧のみで説明しますが吸気バルブの開き始めは上死点前(左側)にある”吸気バルブ開”と書かれている場所、バルブの閉じ終わりは下死点前(右側)にある“吸気バルブ閉”と書かれている場所です。で、開〜閉の間で吸気バルブは開いておりこの角度を作用角と言いこのエンジンでは226°となっています。
通常吸気バルブの開き始めはピストン上昇中(排気行程の途中)ですが、VVT-iの付いていないエンジンではここまで上死点前にはなっていません。このバルブタイミングは結構特殊かも・・・私は今までこのようなタイミングは見たことがありませんでした。
VVT-iが付いているので吸気側のバルブタイミングはコンピューターによって可変になっています。青い線の円弧の内側は外側に比べて遅い(時計回り方向)に変位するようになっています。


排気バルブ

排気バルブの開き始めは下死点前(右側)にある“排気バルブ開”と書かれている場所、バルブの閉じ終わりは上死点後(右側)にある“排気バルブ閉”と書かれている場所です。で、吸気バルブと同様に開〜閉の間で排気バルブは開いておりこの時の作用角は228°となっています。
排気バルブのタイミングは通常と言うと語弊があるかもしれませんが、まあ普通のエンジンと同じような傾向となっています。
一般的なエンジンは排気側より吸気側の作用角の方が大きくなっているのですが、このエンジンは逆になっています。その理由は排気行程でのシリンダー内圧力はどのくらいかは知りませんが数気圧以上となり排気バルブが開いている時間が少なくても燃焼後のガスは排気管へ移動しやすくなっています。一方吸気行程でのシリンダー内圧力はNAエンジンならば通常最大でも大気圧と同じ(若しくは大気圧以下)なので混合気を多くシリンダー内に導入するためには吸気バルブを(排気バルブに比べて)長い時間開いておかなければなりません。当然バルブの開く時間は作用角と比例します。
厳密に言うと吸気&排気バルブが開いている間に通過する流体の量はカムのリフト量とバルブスカート面積(当然通過する流体の圧力)等が関係してくるので一概に角度の大きなカムが多くの流体を通すことが出来るとはいえませんが・・・


さて、バルブタイミングダイアグラムの見方を整理したところでピストンの動きと併せてもう少し突っ込んで説明したいと思います。

図を見ながらのほうがわかりやすいので上と同じ図をこっちでも載せておきます。

吸気行程

まず、ピストンが下降する吸気行程中では当然吸気バルブは開いています。吸気バルブの内側の青い線を見るとそのようになっていますが、外側は上死点前に開くようになっています。この点については後ほど説明します。


圧縮行程

吸気行程が終わるとピストンは上昇し圧縮行程に入りますが、内側の青い線はピストンが下死点を越えても開いています。何故かと言うと燃料を含んだ混合気(空気単体でも)は質量を持っているので慣性力が存在します。慣性力が存在すると言うことは“勢いがついたら止まりにくい”と言うことです。このためピストンが上昇し始めても混合気は慣性力を持っているのでシリンダー内に入り込もうとします。多くの混合気をシリンダー内に入れることでトルクが大きくなるので、なるべく大きなトルクを得るために慣性力を使って混合気をシリンダー内に押し込もうと言う設計思想だと思います。
で、吸気バルブが閉まってからピストンが上昇する行程が実際の圧縮行程になります。このとき排気バルブの赤い線が内側にありますが当然圧縮行程は排気バルブは閉じているのでこれは360°後の線になります。
吸気バルブの外側の青い線については同様に後で説明します。


膨張行程

ピストンが圧縮行程を経て上死点につくと(実際にはその少し前でも)混合気にスパークプラグにより着火し燃焼が開始し膨張行程に入ります。このときも吸気バルブの線がありますが、当然膨張行程は吸気バルブは閉じているのでこの線は360°前の線になります。
排気バルブの赤い線を見ると膨張行程で開き始めています。ピストンが下降中ということはシリンダー内の体積は大きくなっていき圧力は低くなっていきますが、シリンダー内圧力は混合気が燃焼したことでピストンが同じ位置でも圧縮行程中の圧力よりも高くなっている(出力が発生するので当然ですが)ので膨張中でも燃焼後のガスはシリンダー内から排出されるようになります。


排気行程

ピストンが下死点を過ぎて上昇し始めると排気行程に入ります。排気行程が終わるころにピストンが上死点を過ぎると吸気行程に戻りエンジンは回りつづけるようになります。


オーバーラップ

よく見ると排気バルブは上死点後も僅かに開いており、吸気バルブの外側の青い線と重なっている部分があります。排気行程が終了し吸気行程が始まる間に吸気バルブと排気バルブが僅かな時間開くことになりますがこれがオーバーラップと言われる状態です。
注:下死点のほうでも赤い線と青い線が重なっている部分がありますがこちらは360°ずれており吸気行程と圧縮行程の間なのでオーバーラップではありません。

なぜオーバーラップがあるのかというと排気ガスにも質量があるため慣性力が存在します。この場合排気ガスはシリンダー内から出て行こうとしますが慣性力が存在するために(適切な表現ではないかもしれませんが)排気ガスの後ろ側の空気も引っ張る力が出てきます。で、後ろ側に何があるのかというと混合気があり、これがシリンダー内に引っ張られようとすることで燃焼ガスの更なる排出と(こっちは少ないかも?)、吸気行程の始めに混合気に慣性力をつけることでシリンダー内に多くの混合気をいれようとしているのです。
と言うことで通常吸気バルブが開き始めるのは排気バルブが閉じ終わる前、排気バルブが閉じ終わるのは吸気バルブが開き始めた後ということになります。

しかしこのエンジンの場合VVT-iにより吸気バルブが最も遅く開き始める場合はオーバーラップは無くなり排気バルブが閉じ終わってから吸気バルブが開き始めるまでに4°の空白期間があります。また、吸気バルブが最も速く開き始める場合の角度もJZX90の5°に比べると最大で56°と非常に大きくなっています。
具体的にどの回転数でどの負荷域でタイミングをどのように変えているのか手元に資料が無いので邪推しようが無いのでこのオーバーラップの大きさ(小ささ?日本語変?)が何を意味しているのかわかりません。VVT-iのマップは点火時期のマップと同じような感じで回転数と負荷の軸で変えていると思うのですが・・・
マップをお持ちの方がいらっしゃいましたらぜひ教えてください!

参考文献
1) HYPER REV Vol.26 ニューズ出版
2) 長谷川浩之:HKS流エンジンチューニング グランプリ出版
3) 廣安博之、寳緒幸雄:内燃機関 コロナ社

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