JZA80キャリパー&マスターシリンダー流用

JZX100のブレーキチューニングとして定評のあるJZA80(17inch)のブレーキキャリパーを流用したとするとどうなるかを考えます。
因みにJZA80(16inch)はJZX100とブレーキ周りは殆ど同一(リアのみ若干異なる)、JZA80(17inch前期)は対向キャリパー、JZA80(17inch後期:以後JZA80)は対向キャリパー&ビックマスターシリンダーとなっています。


油圧(マスターシリンダー径)

JZA80の油圧勾配は右の図のようになっています。黒い線はJZX100の油圧勾配ですが、2つを比較するとJZA80の方がより高い油圧において変極点がありこの変極点付近ではJZX100よりもリアの油圧が高くなっているもののそれ以降はフロントよりのブレーキバランスになっていることが分かります。
また、移植可能なマスターシリンダーとしてJZA80用だけでなくJZZ30用も行われており、油圧勾配についてJZZ30はJZX100と同じですが、マスターシリンダー直径についてはJZZ30とJZA80は同じです。


JZA80の油圧勾配を得るためにはマスターシリンダーを交換しなければなりません。JZX100とJZA80のマスターシリンダーは、まずシリンダー径が異なります。JZX100はφ25.4、JZA80とJZZ30はφ26.9となります。これはキャリパーピストンの面積が多くなった分レスポンスとフィーリングを向上させるために行われたマイナーチェンジらしいです。ただし、ブースターが同一(ブレーキペダル比も同一)で同じ油圧を発生させる場合はJZA80の方が脚力が必要になります。ただ、最近のビックキャリパー装着車両のマスターシリンダー径はほとんどφ26.9です。(油圧勾配は車種により当然異なると思います)
因みにマスターシリンダー径の違いからJZX100にJZA80マスターシリンダーを移植すると同じ圧力を発生させるには20%大きい力をブレーキペダルに与えなければなりません。


ブレーキローター径

JZX100のフロントローター有効半径は133mmでリアローター有効半径は142mmに対して、JZA80のフロントローター有効半径は147mmでリアローター有効半径は150mmとなり、フロントは10.5%、リアは5.6%のサイズアップとなります。


キャリパーシリンダー面積&シリンダー数

JZX100のキャリパーシリンダー総面積は3097mm2/pcに対して、JZA80のキャリパーシリンダー面積は5755mm2/pc。詳細は各社ブレーキ諸元表をご覧ください。

作動圧力が一定の場合JZA80はJZX100の1.86倍の作動力が得られ、逆にいうと同じ作動力を得る場合は0.54倍の作動圧力でよいと言うことになります。

と言うことは制動力を大きくするためにはシリンダー面積を大きく、シリンダー数を多くすれば良いと言うことになります。事実レーシングキャリパーはシリンダー数が6個とか8個あります。まあパッド面積との兼ね合いでフィーリングも考えられていると思いますが…


ブレーキパッド面積

JZX100のフロントブレーキパッド面積は約5900mm2でリアブレーキパッド面積は約2900mm2に対して、JZA80のフロントは6546mm2でリアは3516mm2となり、フロントは10.9%、リアは21.2%のサイズアップとなります。
(パッドの面取りがされている場合の実面積は考慮していません)


キャリパーブレーキバランス

これらのことを踏まえてキャリパーはJZX100とJZA80、マスターシリンダーはJZX100とJZA80について以下の組み合わせで考えてみたいと思います。

  • 前JZA80キャリパー+後JZX100キャリパー+JZX100マスターシリンダー
  • 前後JZA80キャリパー+JZX100(若しくはJZZ30)マスターシリンダー
  • 前後JZA80キャリパー+JZA80マスターシリンダー

まずパッドの摩擦係数μは0.4、定数kは0.8(多分間違ってます)、P:圧力としておきます。

JZX100

ブレーキシリンダー面積 SF1=3097mm2(フロント) SR1=1282mm2(リア)
ブレーキローター有効制動半径 rF1=120mm(フロント 推定) rR1=136mm(リア 推定)
タイヤ有効制動半径 RF1=316mm(205/55-16) RR1=315mm(225/50-16)

JZA80

ブレーキシリンダー面積 SF2=5755mm2(フロント) SR2=2564mm2(リア)
ブレーキローター有効制動半径 rF2=131.5mm(フロント 推定) rR2=137.5mm(リア 推定)
タイヤ有効制動半径(例) RF2=319mm(225/40-18) RR2=318mm(255/35-18)

JZX100 JZA80
Front (376.3×10-6)×2×P (759.2×10-6)×2×P (202%)
Rear (177.1×10-6)×2×P (354.8×10-6)×2×P (212%)
Barance 68.0:32.0 68.2:31.8

前後バランス云々の前に制動力を見てください。JZX100とJZA80は約2倍の違いがあります。これを見るといかにJZX100がブレーキ容量を不足しているか…
そりゃあ止まらないわって感じです。パッド面積も全然違うので耐フェード性も全然違います。
キャリパーのブレーキバランスはどちらもフロントが68.5%前後になっていますが、JZA80のほうが僅かにリアよりになっていることが分かります。

下の図の見方はブレーキバランス(JZX100純正を[勝手に]考える)をご覧ください。


JZX100 vs JZA80

比較のためにx、y軸を他の図より1.5倍しました。

JZX100キャリパーではブレーキペダルを思いっきり踏んでも1.0Gに届いていませんが、JZA80キャリパーでは1.0Gを余裕で超えています。と言うことはJZA80キャリパーは非常に大きなキャパシティを持っているということです。
ペダル脚力で言うとJZX100では196(N)=20(kgf)の思いっきり踏んだ場合の制動力をJZA80で出すためには98(N)=10(kgf)で良いのです。上の表で出てきたとおりの結果です。

因みに1.0Gの制動力を発生させるためには計算ではJZX100で341(N)=25(kgf)以上(設計値の範囲を超えています)必要ですが、JZA80では147(N)=15(kgf)程でよくなります。
また、同じ制動力を発生させる場合前後JZA80キャリパー+JZA80マスターシリンダーではJZX100純正と比べて60%の力で良い…と思います。

余談ですが、キャリパー設計限界値を発生させるペダル脚力は196(N)=20(kgf)(キャリパー油圧9.80(MPa)=100(kgf/cm2):破壊圧力ではありません)と言われています。


前のみJZA80キャリパー+JZX100マスターシリンダー

ブレーキバランスが悪化すると言われているJZX100にフロントのみJZA80キャリパーを移植すると右の図のようになります。
これを見ると実ブレーキバランスは理想制動配分曲線からかなり離れていることから、ブレーキバランスは大幅にフロントよりになっています。
また、減速度が約0.88Gでフロントがブレーキロックします。

これを解消するためにリアに摩擦係数の高いパッドを装着…と言われていますが、仮に摩擦係数が20%(パッドの断面積比)高いパッドを装着したとしても変極点前のバランスはましになりますが、変極点後のバランスは純正と比べてフロントよりであることに変わりません。
キャリパーピストン、ローター、タイヤ外径などを考慮するとパッドの摩擦係数を約9割高いものを装着するとブレーキバランスは改善されますが、そもそも摩擦係数が約9割高いパッドなんて存在しないでしょう。

また、ハード走行を続けるとパッド&ローターの熱負荷が大きくなりパッドはフェード、ローターはクラックが発生すると思われます。


前後JZA80キャリパー+JZX100(若しくはJZZ30)マスターシリンダー

JZX100にJZA80キャリパーを前後とも移植すると右の図のようになります。
純正キャリパーのグラフと比較するとP&Bバルブが同じため(圧力勾配同一)グラフ右側の制動力の大きなほうに変極点が移動しています。このため純正の変極点後はブレーキバランスがリアよりになっています。(実ブレーキバランス曲線が理想制動配分曲線に近くなっている)

また実ブレーキバランス曲線と最初に交差するロック限界線は同じ理由で後輪ロック限界線となり(リアが先にロックする)、最大減速度は約0.98Gとなります。
リア駆動なのでエンジンブレーキが発生するとさらにリアよりのブレーキバランスになるのですこし危ないように感じます。


前後JZA80キャリパー+JZA80マスターシリンダー

JZX100に前後ともJZA80キャリパー&マスターシリンダーを移植…というかJZA80の制動力バランスが右の図のようになります。
JZX100純正と比較してJZA80の方が実ブレーキバランス曲線が理想制動配分曲線に近くなっています。つまり少し強めにブレーキをかけたときにリアにこれまでより大きな制動力を発生させるようになっています。一般に言われている車体が沈み込むようなブレーキになっているのではないでしょうか?
また、ブレーキバランスが理想に近くなっていることから路面とタイヤの摩擦係数が小さい場合でもJZX100純正よりも大きな制動力を発生させることが出来ます。


まとめ

結論から言えばフロントのみJZA80(17inch)キャリパーを流用するとフロント寄りになりすぎてバランスが崩れることが分かります。これをパッドの摩擦係数を前後で変更することによりバランスが多少改善されますが、フロント寄りである事に変わりありません。さらに最大減速度も純正より低くフロントがロックしやすいブレーキと言えます。
キャリパー交換によりハードブレーキングをするようになるとリアに負担がかかりフェード、ベーパーロック、異常磨耗、ロータークラックなどが発生する可能性があります。当然ハードブレーキングをしなければこれらは発生しませんが、フロントだけの流用(特にリアパッドの摩擦係数が高くない場合)はお勧めしないと言えます。


キャリパーを前後とも流用すると純正のバランスのまま制動力を向上させることが出来ます。前後同時に交換することによりブレーキバランスは全体的にリアよりになり、ブレーキバランスは理想値に近くなっていますが、限界時にリアよりのブレーキバランスになりちょっと危ないです(ABSが作動するので極端に不安定にはならないでしょうが…)。また、ローター外径&パッド面積も純正より増加しているので耐久性や制動力の安定性に優れています。
さらに、リアよりのブレーキバランスになっているのでリアと比べてフロントに摩擦係数の高いパッドを装着することにより車体の安定感と最大減速度が高くなります。パッドの摩擦係数を変更させた場合のブレーキバランスについてはこちらをご覧ください。
ただし、JZX100のマスターシリンダーでは容量が不足すると言われています。と言うのはキャリパーのピストン面積が大きくなった分より多くの体積のブレーキフルードをマスターシリンダーから押し出さなければならず、ストロークが増えるからです。脚力があまり必要でなく(純正の約半分)、ストロークが多目のフィードバックが少ないブレーキと言えるかもしれません。


これを解消するためにマスターシリンダーを流用すると容量の問題を解決することが出来ます。JZZ30マスターシリンダーを移植すれば油圧勾配はJZX100と同じとしながらもマスターシリンダー容量を大きくすることが出来て、JZA80マスターシリンダーを移植すれば油圧勾配の変更並びにマスターシリンダー容量を大きくすることが出来ます。


JZA80のマスターシリンダーを流用するとその特性からブレーキバランスが理想に近くなります。
JZX100(若しくはJZZ30)とJZA80のマスターシリンダーのどちらが良いのかと言うことですが、JZA80の方が良いのではないでしょうか?フルブレーキング時にリアがロックすることもなく、エンジンブレーキを使うことによりブレーキバランスはもう少しリア寄りになることにより最大減速度も高くなります。


ブレーキングによりローター&パッド温度が上昇するとパッドの摩擦係数が変化しますが、ここでは考慮していません。摩擦係数が変化すると数倍もは変わりませんが(フェードを除く)グラフに変化が現れることは確かです。
また、エンジンブレーキも考慮していません。エンジンブレーキが入るとリアの制動力が増加する方向にあるのでJZX100(若しくはJZZ30)マスターシリンダーではリアよりのブレーキバランスが促進され、JZA80マスターシリンダーではフロントよりのブレーキバランスが改善されると考えられますが、エンジンブレーキの制動力が分からないのでどの程度と言うことは出来ません。
実際はキャリパー・ブレーキパッドにより制動力を算出する際の定数と摩擦係数、ホイール&タイヤを含めた回転物の慣性力、エアロ装着による空力係数 e.t.c. が変化するので単純計算上での話と言うことを理解していただきたいです。


それとある方から“前後JZA80キャリパーを流用するとABSが効く前にフロントが少しロックするのは何故?”という質問を頂きました。これは制動力がJZX100の2倍近くなっており純正の時のようにブレーキングをするとタイヤの受け持つことの出来る制動力を越えやすくなっているため=制動力が大きすぎるためだと考えられます。ある適当な制動力を得るためにブレーキペダルに与える力はJZX100キャリパーと比べてJZA80キャリパーは大幅に少なくなっていることからもわかると思います。なにせ計算上ブレーキペダルにおおよそ10[kgf]の力を与えるだけでタイヤがロックしてしまうほどなので… 因みにJZX100キャリパーでは20[kgf]以上でロックだったような…
で、この対策は制動力が大きすぎるので今使用しているものよりパッドの摩擦係数の低いものを使用すると良いかと思います。摩擦係数の低いものと言うと聞こえが悪そうですが摩擦係数が少し低いところで高温まで安定した摩擦係数が得られるものだと容量の大きなブレーキに慣れやすいかと思います。
また、出来るかどうかは別にしてブレーキブースター容量を少し少ないものにするとペダルから伝わってくる力が大きくなるのでブレーキペダルを踏みすぎると言うことが少なくなると思います。
それとおそらく不可能に近いと思いますがABSコンピューターをJZA80キャリパー用にチューニングするとか…
ABSが効く前にフロントが少しロックすると言うのは、JZX100キャリパーの時と比べて減速度の立ち上がりが速いためコンピューターでフロントタイヤがロックしかけになるのを解除しきれていないのだとおもいます。このためコンピューターをチューニングして大きな制動力を与えるときのフロントの減速度が急激に立ち上がってくるときにロックしにくくなるようにすると良いかと思いますが…現実的に難しい(無理?)でしょうね。


最後にブレーキバランスを考える上でHPを参考にさせていただいた方々とマスターシリンダーの油圧曲線を提供していただいたディーラーの方々に感謝を申し上げます。

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