ブレーキングによる発熱量を簡単に考える

一般的にブレーキローター径が大きくなると耐久性が向上する、制動力が大きくなる等と言われていますがここでは前者を考えたいと思います。後者についてはこちらをご覧ください。


まず、車重m=1480(kg) 速度v0=150(km/h)=41.7(m/s)がt=4.0(s)で停止する場合を考えます。

位置、速度、加(減)速度[α(m/s2)]の式は

であり、これを微分して

が得られます。この式を見ると初速v0と加(減)速度が決まれば任意時間後の速度を求めることが出来ます。
また、逆に初速v0と任意時間後の速度が分かれば加(減)速度を求めることが出来ます。


この式よりα=10.4が求められます。加(減)速度をGで表すことがありますが、これは重力加速度で割ることによりこの場合は1.06Gとなります。
このときの制動力は

より83.6(m)となります。


任意速度で運動している物体の仕事量W(J)は

であり、W=1.29×106(J)となります。ブレーキングにより車速が0km/hになると、この運動エネルギーがすべて熱エネルギーに変換されるわけです。:エネルギー保存の法則


仕事率Q(W)は
Q=W÷t
よりQ=0.321×106(W)となります。


比較対照はF40キャリパーでφ332&φ340の2つとF50キャリパーでφ355、それとJZA80キャリパーとJZX100、JZA80のリアを考えます。

JZX100 F40(φ332) F40(φ340) F50(φ355) JZA80(φ323) JZX100(Rear) JZA80(Rear)
パッド半径長さ(mm) 56 51.7 51.7 51.7 60 35 49
パッド面積Ap(m2) 0.00590 0.00641 0.00641 0.00641 0.00655 0.00290 0.00352
ローター接触面積Ar(m2) 0.0422 0.0455 0.0468 0.0493 0.0496 0.0299 0.0423
ローター有効厚さl(m) 0.011 0.011 0.011 0.011 0.010 0.005 0.005

となります。lが間違っているような気がしますが…


これを見ると予想通りローター外径が大きくなるとパッドがローターと接触することの出来るローター有効面積が増加します。
で、パッド面積はJZA80が最も大きくなっています。
また、ローター有効面積についても一番大きくなっています。なぜかと言うとこれはパッドのローターに対する半径長さがF40&50の51.7mmにくらべて60mmと大きくなっているため、ローター有効最小外径とローター有効最大外径の差が大きくなり結果としてローター有効面積が最も大きくなったのです。それとJZA80のリアを見ると有効面積だけで言えばなんとJZX100のフロントよりも大きくなっています。


この面積にブレーキングにより与えられる仕事量(熱量)は最終的に前後のブレーキバランスに依存しています。ブレーキバランスを(単純計算上)仮に76.9:23.1とするとフロント片方のローターに与えられる総仕事量W=0.492×106(J)となります。また、同じ計算をすると仕事率Q=0.123×106(W)となります。
これを面積で割ると熱流速q(W/m2)となり単位面積に与えられる熱量が求められます。つまりこの値が低ければ単位面積あたりの熱負荷が減少します。


さらにローター熱容量を計算します。これは任意温度のときに持つことのできるエネルギーを表しており、逆にいうとエネルギーが決まると温度が決まる係数です。
手元にブレーキローターに使われている材料の諸元がないので仮に鋳鉄(C 4%)とすると、それぞれの熱容量は(kJ/K)
ローター有効厚さ(ベンチレーテッドタイプは外側片一方)をl(m)、密度ρ=7270(kg/m3)、比熱c=0.419(kJ/kg・K)とすると
熱容量=l×A×ρ×c
より

JZX100 F40(φ332) F40(φ340) F50(φ355) JZA80(φ323) JZA100(Rear) JZA80(Rear)
W(J)×106 0.492 0.148
Q(W)×106 0.123 0.0371
パッド
qp(W/m2)×106
20.8 19.2 19.2 19.2 18.8 12.8 10.5
熱容量(kJ/K) 2.83 3.02 3.05 3.14 3.30 0.91 1.29

W、Qでフロント&リアそれぞれで同じなのは均等に制動力を与えた(減速度が等しい)と仮定しているからです。実際はブレーキバランスで変化します。また、このときのブレーキ踏力はそれぞれで当然違います。
パッド熱流速が小さくなるとパッドに対する熱負荷が減少します。これを見るとやはりJZA80が最も小さくなります。


ブレーキングによる総仕事量を熱容量で割ると温度上昇儺(℃)を求められます。
儺=W/熱容量
また、大気温度T0(℃)=20とすると
T=T0+儺
より

JZX100 F40(φ332) F40(φ340) F50(φ355) JZA80(φ323) JZA100(Rear) JZA80(Rear)
T(℃) 194 181 177 169 183 182 135

が算出されます。
計算が違うかもしれませんが合っていると仮定すると、フロントは今度はF50(φ355)が最も温度が低くなっていますが、その次にJZA80(φ323)が低くなっています。なぜかと言うとローター有効厚さが1mm違うからです。本当か?と思いますがこの計算上ではこの値が出てきました。JZX100とF50(φ355)を比べると25℃の差があります。
リアはJZA80の方が47℃低くなっています。これはやはり熱容量の関係で高くなるのでしょう。やっぱりJZX100はこのままではロングツアラーとして使用した方が良さそうですね。


但し、ローター温度は厚さ方向においても一定であると仮定しているので、実際の表面温度は変わってくるでしょう。実際は熱伝達係数、時間軸、放射率e.t.cが絡んできて単純計算できなくなるので…出来たらします。


まとめ

同じ減速度を与えた場合、ローター外径・パッド半径長さ・ローター有効厚さが増加すると熱容量が増加し、ローター温度を低く押さえることが出来ます。と言うことはハードブレーキングを繰り返してもローター温度安定性に優れると言うことです。


フロントで最も優れていたのはF50(φ355)でJZX100と比べて25℃の低下、リアはJZA80でJZX100と比べて47℃の低下が見込まれました。


backnext

↑このページのトップへ戻る↑