ブレーキローターからの放熱を簡単に考える

ブレーキングをすると運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、ローター温度&パッド温度が上昇しますが、一度上がった温度が下がらなかったら困ったことになります。そうならないのは温度と言うものは高いところから低いところに流れるからです。ここではその温度の低下を考えたいと思います。


熱放射

すべての物体は絶対零度(-273.15℃)で無い限り熱放射線を発散します。熱放射線には様々な波長成分を持っており、各波長の放射線を単色放射線(monochromatic radiation ray)と呼び、すべての波長の単色放射線をまとめたものを全放射線(total radiation ray)と言います。
熱放射線は単位表面積から単位時間に放射される全エネルギー(放射熱流速)を放射能(emissive power)といいEで表します。放射エネルギーのうち単位波長幅dλ当たりのエネルギーEλは単色放射能(monochromatic emissive power)と呼ばれこれを全波長について積分したのが全放射能です。

E=∫Eλ


ステファン・ボルツマンの法則(Stefan-Boltzman's law)

ここでステファンが実験的に見出し、ボルツマンが理論的に導いた指揮を取り上げます。
絶対温度T(K)における黒体(入射した全ての波長の放射線を全部吸収する物体をこう呼ぶ)の全放射能EBは、単色放射能Eを全波長にわたって積分すれば得られるので、黒体の全放射能は

EB=σT4

となります。ただし、工学上の計算にはこれを書き直し

EB=5.67×(T/100)4 (W/m2)

とします。このときの絶対温度とは通常使う℃(セルシウス度)に273.15を足してK(ケルビン度)で表したものです。


但し、一般的な物体は完全黒体ではない(灰色体:物体の色ではなく波長を全部吸収する物体としない物体(=白体)の間の物体)ので、任意の物体の放射能Eを表すのに、それと同じ温度の黒体の放射能EBに対する割合で表示する。このときに用いる変数を放射率(emissivity)と呼びεを用いると

E=ε×EB

となります。完全黒体でない一般の物体ではε<1となります。
よって任意の物体の全放射能Eは

E=ε×5.67×(T/100)4 (W/m2)

となります。


ローターの材質を鋳鉄(酸化面)と仮定すると38〜260℃でε=0.57〜0.66となります。
ブレーキローター(ベンチレーテッドタイプでは外側)の場合灰色体の開いた系を考えればよいので、一定時間に行われる放射熱量は
Q=ε×5.67×(T/100)4×(A×2) (J/s)
となります。

大気温度T0=20℃=293Kで、ローター初期温度T1=194℃=467Kからローター最終温度T2=38℃=311K(但し内部温度均一)までに温度低下する時間t(s)は
t=3568
となりました。
ただし、放熱はローター両外側の熱放射のみと考えています。なぜ内側のベンチレート部の熱放射を考えないかと言うと、有効面積に対してベンチレート隙間が十分小さく形態係数が1に近いと…思うからです。


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